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院長ブログ

忘れられないロシア人

ロシアのことがなにかとメディアで騒がれている今日この頃です。

私の医者としての生活の中で、衝撃的な出会いがあったロシア人がいます。

私が医者になって1年目の話です。研修医の私は、神戸の港に近い、ある病院で救急当直をしていました。

 

神戸という土地柄、いろいろな国籍の人が救急部へやってくるのですが、

ある夜ロシア人の患者が救急室にやってきました。日本語の全くわからないロシア人の船員でした。寄港した港の近くにうちの病院があったので来た、という感じでした。

付き添いの人が片言の英語を話したことで、患者が

「お腹が痛い、血を吐いた」

らしいことはわかりました。

症状から胃潰瘍の出血が考えられました。

研修医向けのマニュアルには「直腸診で下血の有無を確認しなさい」と書いてあります。

さて、困りました。

直腸診とはご存知、肛門から指を入れる検査です。

これで腸に下りてきている出血の程度を確認するのです。

コトバがわかる人なら、この検査がなぜ必要なのか、どうやってやるのか、十分説明できる。

「ズボンとパンツを脱いでください。」

「ベッドに横たわり、膝をかかえるようにして丸くなってください」

「私が指を入れますから肛門の括約筋をゆるめてください」

というふうに・・・

さて、困りました。

これだけの内容を、コトバのわからないロシア人船員のオジサンに説明するのです。

通訳を介してでもこれは不可能にちかい。

私はボディーランゲージで彼にメッセージを伝えることにしました。

テレビのバラエティー番組でやっている、ジェスチャーや身振りだけで答えを当てさせるヤツです。

 

(よし私がやろう!)

私は診察の椅子から立ち上がりました。ズボンのベルトをゆるめ、ズボンとパンツを脱ぐジェスチャーをしました。
これは簡単にわかったようでした。

ピンポーン! とオッケーのサインを送る私。

そばのベッドに自分が横たわって、膝を丸くする恰好。

ピンポーン!

横で看護婦がクスクス笑っていましたが、命に係わることです!

 

しかし最後は難関でした。

肛門に指を入れます」のジェスチャー。

でもこういう非常事態では気合でなんとか通じるもので、私が執拗に人差し指を立てて「カンチョー!」のポーズをすると、最後にはこっくりうなずいてくれた。

結果は陽性。胃潰瘍からの大量の出血が確認され、

ロシア人患者は点滴による胃潰瘍の治療をうけることになった。

医師というものは体を張って仕事するものだと研修医の私はつくづく感じたものです。

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