院長ブログ
アゴがはずれる
2022年11月30日|院長ブログ
昨年歯科で治療をしてから、鏡で自分のアゴを眺めることが増えました。
もっと小顔に産まれていたら、異性にモテただろうに・・・
世は小顔ブーム。 あごが小さくて八頭身のスタイルが好かれます。
ですが医学的には小顔でかならずしもいいことはありません。
現代人はアゴが小さくなりましたが、これは食べる物が やわらかくなって、咀嚼(そしゃく)力(かむ力)が必要なくなってきたために起こってきた変化です。
アゴが小さくなると、以前はちゃんと並んでいた歯の居場所がなくなって歯並びが悪くなる。 また下アゴの骨と上アゴの骨のかみ合わせが悪くなります。
口を開くときに痛みを感じたり、ジャリジャリと音がしたりする 症状を「顎(がく)関節症」といいますが、これが現代、増えているのです。
「アゴが外れた」という状況はマンガでしか見ないと私は思っていましたが、 私が実際の症例を見たことがあります。
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総合病院に勤めていたとき、私が担当になった29歳の患者がいました。
彼女は、目がぱっちりしていて、アゴの線が逆三角形でいわゆる美形の人。 桐谷美玲に似た感じの人。
運命の神は非情なもので、彼女は卵巣がんと診断されていました。
卵巣がんの初期でしたが長い化学療法(抗がん剤の治療)が必要でした。
抗がん剤を使うとあまり食物ものどを通らない期間があり 彼女も食欲がおちてしまい、チョコレートとか果物程度しか喉を通らない日が何日か続いていました。
そんなある夜、
「先生、すぐ来てえっー!」 病棟から看護師が主治医の私を呼びました。
緊急事態であると。
彼女のいる病室へ入ってみると、びっくり仰天しました。
彼女はもがいていました。美しい彼女の口が大きく開いたままもがいていました。
「ハガ、ハガ、ヘンヘーハンホハヒヘ(先生なんとかしてえ)」 彼女は目から涙を流し、私に目くばせで助けを求め、手足をばたばたさせている。
アゴが、はずれたらしい。
医学部の学生時代、口腔外科で教えてもらったあのワザを必死に思い出しました。「アゴが外れたときの整復の仕方」です。
彼女の開いた口に私の両手親指を 突っ込み両手をガバっと掛けると、力をこめて下に引っ張りました。
カポッという感じで下アゴが上アゴの関節の穴にはまり、 次の瞬間には何事もなかったかのようにアゴは治りました。
「ああよかったねえ」とは言ってみたものの、
見てはいけないものを見てしまった感じでした。
彼女はその後卵巣がんの治療効果もよく、退院していきましたが、 今思うに、長期に食事が取れなかったのでアゴが弱くなっていたようです。
テレビでアゴの線のきゅっとしまった新人タレントを見るたび、 (この人は矯正歯科にお世話になってるんだろうな)と思ってしまいま
す。